陰性&陽性
   陰性が強い、陽性が強いというのは元素のどういう特性が原因となっているからだろうか?

   陰性がもっとも強いのはF(フッ素)です。知っての通り電子と原子核はお互いに引き合っています。 その引き合う力を求める式は
E=K0 Q
r2
と表されます。
ここでEは電子を引きつける強さを、K0は定数(これは無視してかまいません)を、rは原子核と最外殻電子との距離を、Qは原子核の電荷を示しています。 距離の影響は二乗されるので、Qが大きくなってもそれを打ち消します。rが大きければ大きいほど電子を引きつける力が弱くなります。 よってrが小さければ小さいほど電子を引きつける力が強くなります。だから周期表において同族でみると上に行くほどrの値が小さくなり陰性が強くなります。 また同周期では右に行くほど原子核の電荷が大きくなるので、電子を強く引きつけます。 よってrの値がもっとも小さいフッ素が電子を引きつける力がもっと大きい、つまり陰性が強いのです。
具体的な数値を入れてみればよく分かると思います。FのQは9、rは1.19。Cl(塩素)のQは17、rは1.67です。K0は定数なので無視してかまいません。 これらの値を上式に代入しEの値をもとめてみてください。Eが大きければ大きいほど陰性が大きいことを示します。
また陰性の強さを電気陰性度として表すこともあります。
   陽性が強くなる理由は陰性が強くなる理由と反対だと考えてください。 原子核と最外殻電子との距離が遠くなればなるほど、電子を引きつける力が弱くなり、その電子はどこかに いきやすくなります。よって陽性は同周期では左に行くほど、電子を引きつける原子核の電荷が小さくなり、 同族では下に行くほど原子核と最外殻電子との距離が遠くなり、電子を放出しやすくなります。 よって、陽性がもっとも強いのはFr(フランシウム)です。
電気陰性度
L
1.0
Be
1.5
B
2.0
C
2.5
N
3.0
O
3.5
F
4.0
Na
0.9
Mg
1.2
Al
1.5
Si
1.8
P
2.1
S
2.5
C
3.0
K
0.8
Ca
1.0
Sc
1.3
Ti
1.5
V
1.6
Cr
1.6
Mn
1.5
Fe
1.8
Co
1.8
Ni
1.8
Cu
1.9
Zn
1.6
Ga
1.6
Ge
1.8
As
2.0
Se
2.4
Br
2.8
Rb
0.8
Sr
1.0
Y
1.2
Zr
1.4
Nb
1.6
Mo
1.8
TC
1.9
Ru
2.2
Rh
2.2
Pb
2.2
Ag
1.9
Cd
1.7
In
1.7
Sn
1.8
Sb
1.9
Te
2.1
I
2.5
Cs
0.7
Ba
0.9
La-Lu
1.1-1.2
Hf
1.3
Ta
1.5
W
1.7
Re
1.9
Os
2.2
Ir
2.2
Pt
2.2
Au
2.4
Hg
1.9
Tl
1.8
Pb
1.8
Bi
1.9
Po
2.0
At
2.2
Fr
0.7
Ra
0.9
Ac
1.1
Th
1.3
Pa
1.5
U
1.7
Np-No
1.3
   電気陰性度とは分子内の原子が電子を引きつける能力とでもいえる性質です。 この値が大きければ大きいほど電子を引きつける力が強いことを示します。
   左の表は各原子の電気陰性度を示しています。陰性は左にいけばいくほど強くなると言いましたが、電気陰性度もそうなっているのがわかると思います。 ところどころで同周期で左より右の方が電気陰性度が小さい場合がありますが、遷移元素の場合電子配置が少し複雑なのでそうなる場合があります。 しかし、全体的に見れば左に行けば、下に行くほど電気陰性度は小さくなります。
   原子同士の結合においてこの電気陰性度はとても大きな意味を持ちます。この値が大きいほど電子が引きつける力が大きいということは、もし電気陰性度に 差があると同じ共有結合でも、共有される電子がどちらかの原子の方に引きつけられて分子内で電荷の偏りを生じます。
また、電気陰性度の差が2以上の時にはその原子間の結合は完全なイオン結合であるとみなされます。 よって、電気陰性度の差が小さいほど、共有結合を生じ、大きいほどイオン結合を生じやすいといえます。 だから電気陰性度の大きい非金属元素同士の結合は共有結合で、電気陰性度の大きい非金属元素と金属元素との結合はイオン結合が多いのです。