next up previous contents
Next: 10.2 先取り学習 Up: 10 勉強に関するトピック Previous: 10 勉強に関するトピック

10.1 記憶について

勉強に常について回るのが記憶です。人はどうやって覚えるのかという具体的な機構は分かっておらず 記憶力があるかないかの判断は難しいです。ただ一つ確実に言えることは、誰であっても自分の好きなことや どうしても必要なことは覚えられることです。必要最低限の記憶は大部分の人が持っているので安心して良いと 思います。

さて記憶にもいろいろ種類があり、絵画的なものを覚えるのが得意な人や音やメロディーを覚えるのが得意な人、 数式や数字を覚えるのが得意な人など、どのような記憶が得意かは人によって違うでしょう。 このように人によってどのような覚え方が得意なのかは異なります。 そのため自分にあった記憶法を自分で作る必要があります。

記憶について考えるとき、方向性としては大きく分けて二つあります。 まずは記憶すべき量を減らし、その次に記憶力を高めるために覚える工夫をすることです。 勉強をするときは常にこの二つのことを念頭に置いておく必要があります。

自分の性格や能力によって覚えるのが好きなら、とにかく覚える勉強をすれば良いと思います。 しかし覚えるのが苦手な人は、覚えなくても良い勉強をする必要があります。 覚えなくても良い勉強というのはただ単に覚える量を減らすのではありません。 最低限の知識から、必要なことを「自分で作りだす」ことが求められます。 記憶する量が減る分、それを補うために考えなければなりません。

例えば台形の面積を求める公式と多角形の内角の和を求める公式についてみていきます。 台形の面積を求める公式は $(上底+下底)\times 高さ \div 2$n角形の内角の和を求める公式は $180 \times (n-2)$です。これらの公式は覚える必要あるでしょうか。 もちろん覚えておいて損はしません。 しかしわざわざ無理して暗記しなくても、これの公式は基本的な知識を用いて自分で作りだすことができます。 それは、多角形は三角形に分割できるという知識と三角形の面積(あるいは四角形の面積)を求める知識だけです。 三角形の面積を求められない人はまずいません。ほとんどの人が知っています。 そして多角形は三角形に分割できることも直感的に分かることです。

この基本的な知識から出発すれば、自分でこれらの公式を導くことができます。 数学の公式は決して空から降ってきたり、急に湧いて出てきたりするものではありません。必ず誰かが作り出したものであり、自分で導くことができるのです。 さらにこの二つの基本的な知識から、菱形など他の図形の面積も求められるようになります。 このように公式をたくさん覚えるのではなく、公式を求めるための基本的な知識を覚え、そこから公式を導ける ことができれば公式を記憶する必要はありません。

勉強というのは何も書いてあることを全て覚える必要はありません。自分で考えて分かることは、覚える必要はなく、 そのつど考えれば良いのです。 勉強する時はまず、覚える必要があるのかどうかを考え、何を覚えて何を考えれば記憶量を減らすることが できるのかを判断することが必要です。そうすれば記憶すべき量を減らし、なおかつテストなどの結果を 出すことができます。

それでは数学の公式以外ではどのようにして記憶量を減らせば良いのでしょうか。いくつか例をあげていきます。 まず記憶する内容によっては、その語句の持つ規則性に注目すると分かりやすく記憶量を減らすことができます。 一例として理科における物質名があります。例えば二酸化炭素($\rm CO_2$)、酸化銀($\rm AgO$)、酸化銅($\rm CuO$)、 酸化マグネシウム($\rm MgO$)、酸化カルシウム($\rm CaO$)には全て共通の規則があり、そこに目をつければ わざわざ全ての物質名を暗記する必要はなくなります。酸素と化合すれば、「酸化」という語句が物質名に入り、 なおかつ化学式にも($\rm O$)が含まれます。このように共通部分をまとめて覚えてしまうことも記憶量を 減らすことに効果的です。

次に社会や理科で特に有効となる方法をみていきます。語句を覚えるときは、語句の読み方や書き方だけでなく、 その語句が何を意味しているのかを一緒に覚えておく必要があります。このため記憶する量が増えてしまいます。 ここで漢字の知識を使えば、その語句の意味は漢字から推測できる、つまり漢字を見れば分かるので無理に記憶しなくても 良いということです。

具体例を挙げれば、理科では裸子植物や被子植物、あるいは電磁誘導や誘導電流などがそのよい例です。 教科書でそれぞれの語句を調べ、その漢字の意味と照らし合わせてみれば、なるほどと思うことでしょう。 裸子植物は、胚珠がむき出しである、つまり裸であるということです。それに対して被子植物では、 胚珠が子房に包まれている、つまり胚珠に子房が被さっています。

また電磁誘導は、電磁界によって何かが誘われて導き出される現象です。そして誘導電流は、 電磁界によって誘い、導き出された電流です。このように漢字を見れば、その語句が 何を意味しているのか分かりやすくなります。基本的に漢字の語句が出てきたら、それを訓読みにすれば良いと いうことです。今の例では、裸の種子植物、被さった種子植物、電磁界によって誘われて導き出される、 誘われて導き出される電流というように訓読み、つまり漢字の意味で考えれば良いということです。

もう一つ社会で例を挙げれば、墾田永年私財法や口分田などもそうでしょう。理科や社会で覚える語句の 多くは漢字であり、そこには何かしらの意味があります。その意味にもっと注意を向けると記憶量を減らすことができ、 そしてなおかつ語句の意味を理解することにもなります。

この方法は漢字の知識を必要とします。とにかく漢字を覚えて、その漢字の意味を知っていれば語句の意味は推測 できるようになります。この方法を使うためには日頃から、語句を覚えるときは漢字で覚える癖をつけることが 大切です。

特に社会や理科は漢字の勉強も兼ねるつもりでやった方が良いでしょう。 理科や社会で語句を覚えながら、漢字を覚えるのです。そうすれば国語で漢字を勉強するときに覚えなおす必要が なくなります。その反対の場合もあり、国語で漢字を勉強していれば、理科や社会で語句を覚えるときに大変役に立ちます。社会は社会、国語は国語と分けることは無意味なことで、それぞれの科目で得た知識を他の科目に 応用することが重要です。

これまでは記憶すべき量を減らすためにどう考えれば良いかを中心に見てきました。 ここからは意味の無いものや、覚え方そのものについてみていきます。

今までみてきた方法は、何かしら規則があったり、意味があったりして記憶する助けとなるものがいろいろありました。 しかし全ての記憶すべきことがらに意味があるとは限りません。 意味の有る無しに関わらず覚える方法としては、とにかく音にして覚えるというのがあります。

自転車の乗り方を1度マスターしたらまず忘れることがないように、懐かしい音楽のイントロを聞いただけで一瞬にしてその音楽の記憶がよみがえることがあると思います。このように音の記憶は長い間残ります。 とにかく覚えるときには音にするというのが鉄則です。 音楽のように普段は思い出せなくとも、ちょっとでもきっかけがあればするすると思い出せることが多いです。

例えば円周率を50桁(3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 41971 69399 37510)程度覚えるときは 声に出して何回も読めば必ず覚えられます。 数百桁覚える場合は、音声ではなく語呂合わせで物語を作って覚えた方が良いと考えられます。 円周率をここまで覚える必要性は全くありませんが、とりあえず何回も読んでいれば自然に覚えられます。

また落語で有名なじゅげむも良い例です。

寿限無(じゅげむ)寿限無、五劫(ごこう)のすりきれ、海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の水行末(すいぎょうまつ)、 雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)、食う寝るところに住むところ、 やぶらこ うじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、 グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命(ちょうきゅうめい)の長助

これにも一応それぞれの語句に意味はありますが、その意味を考えてもそれほど暗記の助けにはなりません。 やはり何度も読んで口に慣らす方法が有効でしょう。

このようにとにかく音声に変えて覚えることに慣れると全ての教科に応用できます。 英語の教科書を覚えるときにも、国語、特に古典の暗唱にも、社会のテスト前の教科書暗記など 実に様々なところで応用がききます。この方法は練習すればするほど効果的です。

しかしいきなり勉強に使う文章を覚えようとすると、やはりそれでは面白くなく覚えられないかもしれません。 そういうときはまず自分が覚えたいと思う文章を探し、そこからから覚える練習を始めれば、 自然に覚えられるはずです。こうして身に付けた記憶法を勉強でも応用していきます。 方針としてはとにかく自分の好きな分野で覚え方を身に付け、それを勉強に応用します。

またこうした暗記を繰り返していると、物事を正確に覚え続けることがいかに難しいかを分かると思います。 使わない記憶はどんどん薄れていき、ついには思い出せなくなってしまいます。 しかしすっかり頭から消え去るわけではありません。再び必要なときが来れば、 二度目はすぐに覚え直せるようになります。 だから一見忘れたように思えても、その記憶は全くの無駄になっているわけではありません。

中学校ではあまり必要にはなりませんが、アルファベットの略語を覚えるコツもあります。 略語はそれだけではなく、必ず元の語とセットで覚えます。そうすれば略語の意味も同時に覚えられます。 例えばCD-ROM(Read Only Memory)、CPU(Central Processing Unit)、PHS(Personal Handy-phone System) WHO(World Health Organization)などがあります。

ファベットだけでなく、日本語でも略語は数多くあります。 特に公民や時事問題には略語が多いです。略語はとにもかくにも慣れと語彙量がモノを言います。 日頃からニュースや新聞でそういう略語に触れ、自分で声に出して読んで意味を考えてみることが重要です。 覚えれば覚えるほど覚えやすくなる。同音異義の略語もあるので混乱はしやすいです。 略語には例えば、国連安保理(国際連合 安全保障理事会)、日米安保(日米安全保障条約)、 本四連絡橋(本州四国連絡橋)、破防法(破壊活動防止法)、PL法(製造物責任法)、 テロ特措法(テロ対策特別措置法)などがあります。


next up previous contents
Next: 10.2 先取り学習 Up: 10 勉強に関するトピック Previous: 10 勉強に関するトピック

けるんずるーむ(→トップページへ) | どうすれば勉強ができるようになるのか(→PDF版

Copyright (C) yu-reru 2006